社員手帳を使って
企業理念を浸透させる
近年、企業理念・経営理念の価値やあり方を見直し、オリジナルで「社員手帳」を作成するが増えています。
日本の高度経済成長期、多くの企業は企業理念や経営理念を掲げ、荒波のような社会で戦うための標語として社員を鼓舞してきました。現代、日本社会は当時とは違う大きな変化に立ち向かう姿勢が求められています。企業理念とは何でしょうか。そして、企業理念浸透のためになぜ「社員手帳」が注目されているのでしょうか。その一端を紐解いてみましょう。
「企業理念」とは何か
日本で最も有名な経営者の一人である松下幸之助は、著書『実践経営哲学』※1の中で、経営理念について「“この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行っていくのか”という点について、しっかりとした基本の考え方をもつ」こととしています。
つまり、会社の従業員や顧客、社会などのステークホルダーに対して「会社の存在意義」と、それに伴う「社会的な責任」を表すとともに、それを実現するための「基本的規範」を表現したものが企業理念です。
経営者はこれに準じてあらゆる経営判断をすることになりますし、従業員はこれを全うすることが求められます。顧客はこれが果たされ自社や社会に恩恵がもたらされることを期待します。
企業理念や経営理念が存在することで、企業の目的が明確化され、関わるあらゆる人にとって、価値を提供することになると言えます。現代では企業理念によって企業のアイデンティティを創出し、内外へアピールする効果もあります。
コチラから
「企業理念」が
なぜ重要なのか
企業理念は日々の企業活動の中で効果を発揮しています。
現代では、IT革命後の著しい技術革新や、新型コロナウィルスによる生活様式の激変などで、社会のありかたが大きく変化してきました。企業理念はこのような大きな変化に対応するうえで重要な要素です。社会が変化をするとそれまでの手法が通用しなくなります。このような場合、企業理念が浸透していない会社では、方法論が先行してしまい目的がぶれてしまう可能性があります。目的がぶれると場当たり的な活動が増え、変化から遅れをとったり、誤った判断を続けてしまったりと失敗をする原因となります。企業理念が浸透している会社はそのようになりません。存在意義を軸としてもっているため、変化する社会の中で自分たちがどのように行動すべきなのかを方法論ではなく理想論で議論することができるからです。企業としての行動がしっかりとした理論に裏打ちされ、意味のある活動を起こすことができます。変化に対応できる企業体制を整える意味で、企業理念は重要と言えます。
企業理念は問題に直面した時に大きな効果を発揮します。企業は日々大小様々な問題に直面します。企業理念が根付いている企業であれば、社員一人ひとりが企業理念に基づいて判断をします。企業が負っている責任を認識しているため、何を中心に問題に取り組めばよいのか即座に判断できるのです。リスクを回避する、あるいは軽減するという意味でも、企業理念は重要な意味を持っているのです。
前述の『実践経営哲学』の中では、「刻々に変化する社会情勢の中で、次々と起こってくるいろいろな問題に誤りなく適正に対処していく上で基本のよりどころとなるのは、その企業の経営理念である。また、大勢の従業員を擁して、その心と力を合わせた力強い活動を生み出していく基盤となるのも、やはり経営理念である」と述べられています。激動の時代になると言われている現代において、企業理念・経営理念の確立と浸透は重要な企業の軸であり、企業の発展・存続にとって根幹をなす要素として再認識されているのです。
松下幸之助の「企業は人なり」という有名な言葉は、社員である一人ひとりの「人」がいかに重要かを明確にしています。企業を構成しているのは企業理念そのものではなく、それを魂とする社員一人ひとりということです。
事業は一本の木に喩えられます。事業を成功させるためには、枝を伸ばし、大きな葉を広げることが重要です。しかし、根がしっかりしていなければ大樹になることはできませんし、根が弱ければ簡単に倒木してしまいます。この根の部分こそが「人」です。社員一人ひとりが事業を支えています。根を強くする栄養が「企業理念」であり、企業理念が存在していても、しっかりと根に届いていないのであれば意味はありません。
企業理念を
浸透させるには?
~デジタルの時代だからこそアナログの手帳を~
いかに素晴らしい企業理念を掲げていても、社員に浸透していないのでは机上の空論です。企業理念を確立することと同等に、いかに社員に浸透させるかも重要な要素です。
近年注目されているのは、「社員手帳」を作成することです。デジタル化が進む現代において、アナログの媒体を使用することに意外性を覚えるかもしれません。しかし、これは現代のトレンドでもあります。例えば、2019年には、トヨタ自動車が社員手帳を作成したことがニュースになりました。トヨタグループには、トヨタの経営の核として「豊田綱領」というものがありました。これはトヨタ自動車の企業理念ではありませんが、その中心となっているものです。これまでも、豊田綱領を社内外にアピールしてきたトヨタ自動車も、このような社員手帳として、一冊の本にまとめ社員に携帯させるのは初のことだそうです。100年に1度の大変革期と言われる自動車業界を牽引するために、今一度企業理念の浸透をはかる必要があると判断したことがオリジナル手帳製作のきっかけとなりました。
トヨタ自動車は先進的なチャレンジをしている日本を代表する企業ですが、あえて「手帳」というアナログな方法を採用しました。時代の流れから言えば、アプリの作成やHPの改変など、デジタルな方法が最良のようにも感じますが、実はアナログであることが、企業理念の浸透には効果があると考えられます。
手帳はデジタル製品と違い、頻繁な書き換えや内容の変更は出来ず、印刷したものを使い続けるしかありません。様々なツールがデジタル化していくのは、これが大きなデメリットとなっているためですが、企業理念の浸透においては一つのメリットにもなります。企業理念は基本的に不変のものです。状況に応じて細かく書き換える必要はなく、むしろ時代の変化の中でもどっしりと構える重厚さが重要でもあります。変化に寛容なデジタル媒体では、社員に対して重厚さを訴えることができず、企業理念そのものが軽んじられてしまいます。あえて手帳というアナログな媒体である手帳を選ぶことで、その価値をしっかりと伝えることができるのです。
最近は、新型コロナウィルスの影響を受け、テレワークを基本スタイルに変更する企業も増えています。こういった企業でも企業理念手帳・社員手帳の作成は活発化しています。テレワークとなると日常的に同僚に会う機会が少なくなり、企業の中で働いているという感覚が薄くなりがちです。社員である自覚と一体感が薄れると時代に対応できなくなってしまいます。オリジナルの社員手帳を配布することで、社員である「印」を残し、一体感を創出しつつ、企業理念によって社員の自覚を持った活動をしてもらうきっかけとなるように工夫しているのです
コチラから
クレドを追加した
社員手帳の事例
社員手帳では、企業理念だけでなく他の要素を盛り込むことで、有用性を高めたり、相乗効果を発揮したりすることがあります。例えばクレドを盛り込んだ手帳は多くの企業が実施する方法です。クレドには様々な概念がありますが、ここでは企業理念を遂行するためのより具体的な行動指針とします。企業理念は不変で抽象的であるのに対し、クレドは比較的具体的なもので、時代の変化などに応じて形をかえていくものです。会社のビジョン・ミッション・バリューなどもこの中に含まれます。
ある企業では、社員手帳にクレドをもとにしたワークシートを追加し、毎週の目標設定や自己評価ができるように工夫したオリジナル手帳を作成しました。社員は毎週月曜日の朝、このワークシートを埋めることから仕事を始めます。自身の課題や目標をクレドに基づくシートに記載することで、企業理念を意識した行動が社員におのずと身に付き、自社にとって貴重な戦力として成長させることができます。この企業では一般的なウィークリーページに簡単なワークシートを追加したことで、煩雑さも少なく、かつ、日常的に自身の目標に目を向けさせることができました。毎年手帳を作成することで、時代の変化に応じたクレドの変更にも対応しています。
社内会議などの年間予定や記念日をスケジュールに入れ込んだ社員手帳の事例
ある企業では、社内会議の予定をすべて印刷したオリジナルスケジュールを作成し、社員に配っています。この企業では、会議が定期的に実施されることが決まっており、多くの社員がこのスケジュールに合わせて活動をしています。あらかじめ手帳に入れ込むことで手帳を確認する機会を増やし、同時に企業理念に触れる機会も創出しました。デジタルのツールでは、予定だけしか見ない可能性が高いですが、一つの手帳にまとめることで、手帳を開くたびに企業理念を確認し、意識付けができるように工夫しました。
就活生に
企業理念をアピール
企業理念による社員教育に自信を持っていたある企業では、自社を志望する就活生に「就活応援手帳」をオリジナル作成し配布しました。この手帳は、就活生の目標設定や、日々の記録、面接の自己評価や反省などを記載できるような「就活生のための手帳」として作成されていますが、要所にはその企業の企業理念を掲載し、記載欄はクレドに基づいた構成をとることで、入社してからの思考法をプレ体験できるように作成しました。短期・中期・長期の目標を記載するページでは、企業における目標について解説するなど、この手帳を使って就活をするだけで、就活期間を一種のインターンとなるように工夫しました。また、就活のあらゆるステージをPDCAサイクルで実施できるよう工夫し、社会で必要な考え方も実践できる場としました。もちろん、学生にとっては、自分を成長させてくれる会社として魅力的に映りますし、そういった学生が多く入社をすることで、企業理念の浸透は格段に進みます。とても面白い事例です。
変化が激しい中で、企業理念の意義が再確認されています。そして、企業理念を浸透させる方法として「社員手帳」は非常に有効です。オリジナル社員手帳は工夫次第で多様な効果を発揮し、企業を成長させる助けになります。オリジナル「社員手帳」の作成をご検討してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】 ※1 松下幸之助『実践経営哲学』1978年 PHP研究所
社員手帳による企業理念
浸透のメリットまとめ
- 常に携帯しているため、目を通す時間が増える
- 手元にあるため、読み返しやすい
- 継続的な成長につながる
- 共通の手帳を使うことで、一体感が生まれる
- その他のツールとの親和性が高い